これまでオフィスは、従業員、マネージャー、上級幹部、お客様、社外パートナーなど、多くのステークホルダーのニーズを満たすように設計されていました。しかし、皆を満足させるような設計をしようとしても、誰もが喜んでくれるものを作るのは容易なことではありません。
これは、私たちが、物理的なオフィスが本当に必要かという疑問に直面するまで問題ではありませんでした。しかし、パンデミックによって何百万人もの人が自宅で働かざるを得なくなったことで出された回答は、物理的なオフィスがなくても私たちは良好な関係を維持でき、どのグループもオフィスについて不満をもらすだけで、十分な価値を得ているわけではないということでした。
多くの企業で、従業員が自宅で働いていても生産性は維持されることがわかりました。しかしその数字の背後には、家庭と仕事の間の境界線が明確ではないなか、仕事を失うかもしれない恐れも相まって、従業員がさらに多くの仕事をこなそうとするという事実がありました。2020 年の KPMG のレポートによれば、労働者の 83 パーセントは、パンデミックによって仕事の需要が増していると答えています。
コロナ禍での生産性はまぼろしなのです。労働時間が増えれば、従業員の燃え尽き症候群 ( English )と従業員の定着率低下という犠牲を払うことになります。これは、どの企業にとっても持続性のある競争上の優位性ではありません。労働者の移動が激しい時代にあって、これは大問題を招くく可能性があります。
従業員を第一に考える
従業員の基準に従って、企業が従業員の生産性を向上させることができれば、それは持続可能な価値の高い競争上の優位性になります。
働き方の未来は、ビジネスリーダーが従業員に対して価値を提供すること ( English )に徹底してフォーカスできるかどうかにかかっています。これには思考の大きな転換が必要ですが、まったく馴染みのないものではありません。単一のグループの価値だけを優先して成功を見出す組織はたくさんあります。お気に入りのアパレルブランドのショップやレストランなど、B2C(消費者への直接取引)の事業がそれにあたります。こうした事業の最も重要なステークホルダーは消費者であるため、顧客の具体的なニーズを満たすための戦略を構築(および再構築)します。
従業員が消費者のように待遇される場合、あるいは CEO がワークスペース戦略 ( English )を従業員のニーズを満たすように構築し、従業員の希望の変化に合わせて調整する場合、どのようなオフィスになるか想像してみてください。
柔軟なスペースのプロバイダーは、すでにこうした CEO を支援しています。それは、短期間のリース期間にさまざまなワークスペースを貸す不動産会社です。その多くは、テナントが環境の変化に即応できるようなカスタマイズ可能なオプションや、期間内でもスケールアップまたはスケールダウンできるオプションを提供しています。また、コスト削減も得られます。業種を問わず大企業が設備投資に費やす額は、柔軟なサービスプロバイダーがオフィスを構築するために費やす額の 2 倍です。
WeWork のプロジェクトエグゼクティブである Ashley Hohmann は、「柔軟なワークスペースは、従業員のニーズにより個人的なレベルで迅速に対応したい雇用主にとって、非常に強力なツールです。従来型の不動産開発の仲介では、簡単に、またはそれほどの低リスクで、新たな戦略に合わせて対応できる機能は提供されません」と指摘しています。
人は、職場環境を自分で自由に選ぶことを切望します。実際に、75% の従業員が、職場環境を自由に選択できるようになるのなら、医療保険、現金ボーナス、有給休暇など、少なくとも 1 つの手当または特典を放棄しても構わないと答えています。こちらから従業員のオフィス使用戦略を指示すれば、従業員が提供されたスペースを気に入っているのか、それとも単にルールに従っているのかを知ることが一層難しくなり、継続的にすばやく最適なフィードバックを得ることが妨げられてしまいます。
従業員が望むものについて知れば知るほど、何を提供すべきか、また同様に重要なこととして、何を取り去るべきかについて理解を深めることができます。理解が深まれば、より少ないコストで、より大きな影響を及ぼすことができます。ですから、従業員に選択肢を提供してください。これには、コワーキングのオプション、異なるタイプのスペース、あるいはどこでいつ働くかに関する柔軟性などが含まれるでしょう。WeWork のような柔軟なスペースのプロバイダーは、すでにこれを日常的に行っている会社を支援しています。
従業員をお客様として待遇する
従業員をお客様とするアプローチに対応していくには、リーダーは少数の指標に焦点を当てる必要があります。それらはまた、継続的に(四半期ではなく、毎日、毎週)測定されなければなりません。標準的なワークスペース戦略では、リーダーは往々にして多くの指標について詳しく測定しようとしますが、それはワークスペース戦略プロジェクトで設定された期間内に限られます。この標準的な測定アプローチの欠点は、結果は 1 つのコンテキスト、つまり調査を実施した時点についてしか理解できないということです。これは、会社が「差分の差分法」の調査を実施できないことを意味します。これは基本的に、ロケーションやグループ間でのばらつきを利用して、コンテキストの変化が結果にどのように影響しているかを理解する方法です。
それに比べて柔軟なスペースのプロバイダーは、顧客定着率、ネットプロモータースコア、使用率といった、限定的な指標を使って頻繁に測定します。これにより、プロバイダーは不動産戦略の基礎となる市場のフィードバックを常時取得できます。
WeWork は、ほとんどの大企業が行ったように従業員を対象に「職場復帰に関する調査」を実施しましたが、それが他と異なるのは、2週間ごとにアンケートを実施し、毎回 3 つの同じ質問を含めたことです。これらの中で最も重要だった質問は、「長期的にはオフィスを何日使うと思いますか?」でした。これにより、WeWork は、その地域での新型コロナウイルスの感染率が変化するなかで、その回答が時間の経過とともにどのように変化したかを国家間で比較し、前週にオフィスを訪れた後にその従業員の回答がどのように変化したかを調べることができました。この継続データにより、どれだけの従業員がオフィスに戻ってくるのかについて、ほとんどの入居テナント企業が得たよりも、かなり進んだ理解が得られました。連続した測定により、次の原則に基づいた対応が可能になります。
適した答えになるまで実験する
科学者が実験するように、ワークスペースについても実験してみましょう。多くの企業は、ワークスペースに関する試みを 1 つか 2 つ実施していますが、通常は非常に限られており、比較対照して検討するグループが欠如しています。需要に基づいたオフィスを運営するには、実験的な取り組みを私たちの業務の中核として捉える必要があります。これまでのデータでは、入居テナント企業は 10 年に一度、新たに全社的なワークスペース基準を定めています。
それを柔軟なプロバイダーが提供するサービスの迅速な開発や再開発と比較してみましょう。WeWork のサービスは、市場の需要に応じて開発され、その後入居テナント企業から得た洞察に基づいて改良されます。「このフィードバックループによって、当社のサービスについて継続的に情報を得て、従業員のニーズの変化に対応するために必要なソリューションを確実に企業に提供できるパートナーシップが成立します」と Hohmann は述べています。
企業はよく、実験的な取り組みを行わないのはそのコストが原因だと言い、高額すぎると考えます。テクノロジー業界のスタートアップではよくこう言われています。「実験的な取り組みにコストが掛かりすぎると思うなら、実験的な取り組みを行わないことで被るコストに目を向けみるべきだ」。柔軟なスペースのプロバイダーによって、お客様がオフィスについて実験的な取り組みができることが示されているだけでなく、スペース自体が柔軟なことで、お客様は不動産に関する様々な条件(市場、ロケーション、規模、レイアウトなど)を簡単に試してみることができるようになっています。
オフィスは、チーム構成、コミュニケーションのスタイル、環境、創造性のつながりが持つメリットを活かし始めるのに最適な場です。そのつながりを理解するための前提条件は、オフィスに行って、構造化されていない方法で(自然な流れに合わせて)、仕事をしたり、共同作業やミーティングを行うことです。
新型コロナウイルスのパンデミックを通じて、私たちが以前考えていたよりもはるかに、人は労働環境の変化を受け入れる能力があることがわかりましたが、従業員から希望することを教えてもらえるようにすれば、何が本当に重要であるかを試しながら見つけることができます。あるお客様から、ワークスペースは「実験してみるには重要すぎる」と言われました。しかし、ワークスペースは重要だからこそ、よく調査して実験することが不可欠なのです。
Marshall O’Moore 氏は Agile Advisory の代表です。ミシガン大学で経済学と統計学の学士号を取得し、不動産業界で 9 年以上の経験を有する同氏は、世界経済フォーラムの最年少の講演者の一人です。顧客との仕事に加え、市場予測、労働分析、不動産オプションの評価、ポートフォリオの最適化など、さまざまな主要入居者が抱える課題に対して革新的なソリューションを生み出すための数々の分析関連の取り組みを指揮しています。
Anjie Zheng は WeWork の編集長です。